ティルト対策の前に、ティルトは「原因」と「結果」に分けられる
こんにちは、GAME STEP編集部です。
連敗が続いて、思わずキーボードを強く叩いてしまう。取り返そうと焦るほど、冷静な判断ができなくなる。こうした状態を、ゲーマーは「ティルト」と呼びます。
よく「ティルトしたら休め」と言われますが、そもそもティルトとは何なのか、自分が今ティルトしているのかは、言葉のわりにはっきりしません。今回取り上げるのは、そのティルトを「測る」ことに取り組んだ研究です。
見えてきたのは、ティルトが「原因」と「結果」に分けて捉えられる、という姿でした。
味方のミスにいら立ち、画面を見ているのに状況が頭に入ってこない。そんな状態のまま操作を続けて、気づけば連敗していた。
ゲーマーのあいだでは、こうした崩れを「ティルト」と呼びます。崩れると負けが込み、負けが込むとさらに崩れる。経験したことのある人は多いのではないでしょうか。
ティルトという言葉はよく使われますが、研究でそれを正面から「測ろう」としたものは多くありません。2024年に公開された研究は、まさにそこに取り組んでいます。
こんな心当たりはないでしょうか。
- ランク戦で連敗すると、つい操作が雑になる
- 味方のミスにいら立って、画面の状況が頭に入ってこなくなる
- 一度崩れると、取り返そうと焦って余計に負ける
- 「ティルトしたら休め」と言われても、自分が今ティルトしているのか分からない
この研究では何を調べたのか
研究を行ったのは、Bonillaらの研究チームです。論文は2024年に Frontiers in Psychology で公開されました。
対象になったのは、スペイン語圏のゲーマーとeスポーツ選手488名です(男性278名、女性210名)。年齢は18歳から50歳で、平均は26.9歳(標準偏差7.57)でした。参加者には、ティルトに関する項目に加えて、プレイ中のトキシックな振る舞いを測る質問と、ネット・ゲーム行動症を測る尺度(IGDS9-SF)にも回答してもらっています。
この研究の目的は、ティルトという曖昧な状態を数値で捉える「ものさし」、つまり質問紙を作ることでした。崩れたときに何をすれば減るか、という対策を試した研究ではありません。
ティルトは、もともとポーカーで使われていた言葉で、感情的になって判断が乱れ、普段どおりのプレイができなくなる状態を指します。対戦ゲームでも広く使われるようになりました。
ネット・ゲーム行動症(IGD)は、ゲームのプレイを自分でコントロールできなくなり、生活に支障が出ている状態を指す考え方です。この研究では IGDS9-SF という短い質問紙で測っています。
研究で分かったこと
ティルトは「原因」と「結果」に分けられた
研究チームは、まずたくさんのティルトの項目を用意し、因子分析という方法で整理しました。
因子分析は、たくさんの質問への答えのパターンから、その裏にある共通のまとまり(因子)を見つける方法です。似た動きをする項目を、いくつかのグループにまとめるイメージです。
その結果、最終的に18項目が残り、「原因」をとらえる7項目と、「結果」をとらえる11項目に分かれました。この18項目で、ティルトという状態のばらつきの51.2%を説明できたとされています。
分散を説明する割合は、その項目セットで、人によるティルトの違いをどれくらい拾えているかの目安です。値が大きいほど、違いをよく捉えられている、という読み方になります。
質問紙全体の信頼性を表すクロンバックα係数は0.922でした。原因の因子は0.854、結果の因子は0.890です。
クロンバックα係数は、質問紙の中の項目が、同じものを一貫して測れているかを表す値です。0から1までの間を取り、1に近いほど一貫性が高いとされます。
確認的因子分析という別の手続きでも、この原因と結果という分け方のあてはまりは良好でした(CFI 0.952、TLI 0.945、RMSEA 0.073)。
CFI・TLI・RMSEAは、作ったモデルがデータにどれくらい合っているかの目安です。CFIとTLIは1に近いほど、RMSEAは0に近いほど、あてはまりが良いとされます。
ティルトは、ひとかたまりの気分ではなく、きっかけとなる「原因」の側面と、表に出る「結果」の側面に分けて捉えられることが示されました。
ティルトは雪だるま式に大きくなる
研究チームは、ティルトがどう進むのかについても論じています。論文によれば、ティルトは一気に来るのではなく、徐々に進んで「雪だるま式」に大きくなっていきます。そして、怒りの爆発のような外に向かう現れ方と、気力や意欲の喪失のような内にこもる現れ方のどちらかとして現れることが多い、と述べられています。
また、ティルトの始まりはストレスの多い状況と重なり、おおよそ30分続くと説明されています。ただしこの「30分」は、インタビューから得られたティルトの定義の一部で、点数から統計的に計算された持続時間ではありません。
ティルトは、崩れたと気づいた時点で、すでに雪だるまが転がり始めた後かもしれません。
ティルトの高さと、ネット・ゲーム行動症との関連
研究チームは、ティルトの点数とネット・ゲーム行動症の関係も調べています。変数のつながりをまとめた構造方程式モデルでは、このモデルがネット・ゲーム行動症のばらつきの21%を説明したとされています。
構造方程式モデルは、複数の変数がどうつながっているかを一度に調べる統計の方法です。これは変数どうしの関連を示すもので、「どちらが原因か」を実験で確かめたものではありません。
論文は、この結果について、ティルトのレベルが高い選手ほど、ビデオゲームとの問題のある関係を発展させ、ネット・ゲーム行動症につながるリスクが高い可能性がある、と議論しています。
あくまで関連であって、「ティルトするとネット・ゲーム行動症になる」という因果が確かめられたわけではありません。順番が逆の可能性もあります。
eスポーツプレイヤーにとって何を意味するのか
この研究は、ティルトを減らす方法を試したものではなく、ティルトを「測る」ための質問紙を作った研究です。だから、ここから直接「こうすればティルトが減る」とは言えません。
それでも、プレイヤーにとって意味があるのは、ティルトを原因と結果に分けて見られるようになる、という点だと思います。崩れたときに「なんだか調子が悪い」で終わらせず、何がきっかけ(原因)で、どんなサイン(結果)が出ているのかを、別々に見られるようになる。これは、次に何を変えればいいのかを考える手がかりになります。
一方で、注意しておきたい点があります。この研究が調べたのは、スペイン語圏のゲーマーとeスポーツ選手で、特定のFPSタイトルや日本語圏のプレイヤーを対象にしたものではありません。ティルトという現象は共通していても、細かい数値がそのまま当てはまるとは限らない、と考えたほうがよさそうです。
実際のプレイ環境にどう取り入れるか
ここから先は、研究で直接検証されたものではなく、GAME STEP編集部が実践の一例として提案するものです。効き方には個人差があります。
1. 試合後に「原因」を振り返るチェックリストを作る方法があります
この研究でティルトの「原因」として整理された項目には、自分でコントロールできないことのせいにしてしまう、重要な場面で失敗した、といった考え方が含まれます。試合のあとに、こうした思考がなかったかを振り返るチェックリストを作っておく方法があります。ただし、このチェックがティルト対策として効くかどうかは、本研究では確かめられていません。
2. 「結果」のサインを、休む目安にすると考えます
ティルトの「結果」として挙がるのは、怒りの爆発や、集中力の低下です。こうしたサインが出たら、一度プレイを止めて休む、という目安にする方法があります。休めばティルトが軽くなるかどうかは、この研究では検証されていません。
3. 感情を立て直すスキルの練習を取り入れると考えます
研究チームは、感情の調整との関連を今後の課題として挙げています。そこで、呼吸を整えたり間を置いたりといった、感情を立て直すスキルを練習に組み込むことも考えられます。こちらも、その効果そのものが本研究で確かめられたわけではありません。
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この研究から分かること
- スペイン語圏のゲーマー・eスポーツ選手488名(男性278名、女性210名、18〜50歳、平均26.9歳)を対象に、ティルトを測る質問紙を開発した
- 最終的に18項目が残り、原因因子7項目と結果因子11項目に分かれ、分散の51.2%を説明した
- 質問紙全体のクロンバックα係数は0.922、各因子は0.854と0.890だった
- 確認的因子分析の適合度は、CFI 0.952、TLI 0.945、RMSEA 0.073だった
- 構造方程式モデルは、ネット・ゲーム行動症の分散の21%を説明した
- ティルトはストレスの多い状況とともに始まり、徐々に「雪だるま式」に大きくなり、怒りの爆発や気力の喪失として現れるとされた
この研究だけでは分からないこと
いくつかの限界があります。
- この研究は変数どうしの関連を調べたもので、「ティルトがネット・ゲーム行動症を引き起こす」という因果を示したものではありません。順番が逆の可能性もあります
- 著者らは、サンプルがスペイン語圏の文化に限られており、ほかの文化圏に一般化するには限界があると述べています
- 特定のFPSタイトルや日本語圏のプレイヤーを対象にした研究ではないため、FPSの現場にそのまま当てはめられるとは限りません
- ティルトが「おおよそ30分続く」という説明は、インタビューから得られた定義の一部であり、点数から計算された平均の持続時間ではありません
- ティルトを測る質問紙を作った研究であって、どうすればティルトが減るか(対策の効果)は調べていません
まとめ
ティルトは、ひとかたまりの気分ではなく、きっかけとなる「原因」と、表に出る「結果」に分けて捉えられる。488名を対象にした2024年の研究は、そのための質問紙を作りました。
ティルトが始まると、気づいたときにはもう雪だるまが転がり始めた後かもしれません。だからこそ、崩れてから考えるより、先に決めておくことが効きやすいと考えられます。
今日からできることを1つ挙げるなら、「どのサインが出たら席を離れるか」を、プレイを始める前に1つ決めておくことです。怒りがこみ上げる、画面の状況が頭に入らない。そうした自分の「結果」のサインを、休む合図として事前に決めておく。崩れてからでは、その判断そのものが難しくなります。
GAME STEPが考える「上達の仕組み」
GAME STEPは、上達を「才能や気合」ではなく「環境とルールの設計」の問題として扱う、eスポーツの個別コーチングサービスです。停滞や伸び悩みに悩むプレイヤーに向けて、90分のマンツーマンセッションと、日々のチャット相談・宿題の設計で上達を伴走しています。
ティルトのように、気合では止めにくいものほど、崩れてからの根性ではなく、崩れる前のルールで対処するほうが現実的だと考えています。何を合図に、どう動くかをあらかじめ決めておく。その設計を一緒に組み立てるのが、GAME STEPの役目だと思っています。
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※本記事は紹介した研究で示された知見の解説であり、効果を保証するものではありません。実践案の効き方には個人差があります。この研究はスペイン語圏のゲーマー・eスポーツ選手を対象にした尺度開発であり、特定のFPSタイトルや日本語圏のプレイヤーを対象にしたものではありません。
参考文献
- Bonilla et al.(2024). “Development and validation of a tilt scale and its relationship with Internet Gaming Disorder in gamers and esports players” Frontiers in Psychology, 15, 1409368. doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1409368
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