FPSが上手くならない原因は「練習量」ではなかった
こんにちは、GAME STEP編集部です。
エイム練習も上達動画も続けているのに、ランクだけがずっと動かない。そうなると浮かぶのは「まだ練習が足りないのかも」という考えだと思います。
今回取り上げる2024年の研究は、まさにその「練習量」とランクの関係を調べたものです。結果は、多くのプレイヤーの想像とは違っていました。
何が分かって、何がまだ分からないのか。時間を増やす前に見直せるものと合わせて紹介します。
平日の夜、仕事から帰って射撃訓練場で30分。
通勤中には上手い人の解説動画。週末はまとまった時間でランク戦。
なのに、ランクは3ヶ月前と同じ場所で止まっている。
足りないのは練習量だと考えて、エイム練習を40分に増やし、動画をもう1本。よくある対処です。
2024年に公開された597名を対象とする研究は、違う見方を示しています。
「上達のための練習」に使った時間と、実際のランクのあいだに、意味のある関係は確認されませんでした。
この「上達のための練習」には、動画やガイドで学ぶ時間も、エイム練習の時間も、コーチから指導を受ける時間も含まれます。コーチングサービスを運営する編集部にとっては都合の悪い結果です。それでも紹介するのは、この研究が「何が差になっていたのか」まで示しているからです。
こんな心当たりがあれば、最後まで読んでみてください。
- エイム練習を毎日しているのに、実戦で当たる感じがしない
- 上達系の動画は人一倍見ているのに、自分のプレイが変わらない
- プレイ時間だけが増えて、ランクが3ヶ月動いていない
- 社会人になって時間が減ったから伸びないんだ、と思っている
この研究では何を調べたのか
今回紹介するのは、スロバキア科学アカデミーのMartončikと、フィンランドのユヴァスキュラ大学のKarhulahtiを中心とする国際チームが2024年に発表し、心理学領域の国際誌「Collabra: Psychology」に掲載された研究です。
この研究には「事前登録報告(Registered Report)」という珍しい形式が使われました。
データを取る前に「何を調べるか」「どんな結果が出たらどう判断するか」を先に公表し、学術誌の審査を通してから調査を始めます。
結果が出たあとで都合よく解釈を変えられないため、「思ったような結果が出なかった」という報告もそのまま世に出ます。今回もそのタイプです。
参加者は、Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)のプレイヤー186名と、League of Legends(LoL)のプレイヤー411名の計597名(回答の品質チェック後、分析対象は548名)。
実力の指標には「過去12ヶ月の最高ランク」が使われました。
調べたのは、練習時間・年齢に加えて、注意・反応時間・知能などの心理的な力です。
練習時間とランクは自己申告のアンケートですが、注意・反応時間・知能は実際のテスト課題で測定されています(粘り強さは質問紙です)。
練習は次の2種類に分けて測られました。
上達を目的にした練習(計画的練習)
- ガイド・動画・配信・リプレイを一人で見て学ぶ時間(プレイは含まない)
- チームメイトやコーチからフィードバックをもらう・議論する時間(プレイは含まない)
- コーチや上手い人と、戦術の話や振り返りをしながらプレイする時間
- 一人でエイム練習や場面練習をする時間
普段のプレイ
- ランクマッチを回す時間
- カジュアルマッチを回す時間
この研究は一時点の調査にもとづく相関・回帰分析です。「AとBが一緒に動く」ことは分かりますが、「AがBを引き起こす」とまでは言えません。記事中でも因果を断定せず、「関連が確認された」という言い方を使います。
研究で分かったこと
発見① 「上達のための練習」の時間は、ランクとの意味のある関係が確認されなかった
このあと出てくる「r」や係数は、2つのものがどれくらい連動して動くかを表す数値です。
0に近いほど無関係で、1(または-1)に近いほど強く連動します。プラスは「一緒に増える」、マイナスは「片方が増えるともう片方は減る」関係です。
年齢や他の練習量などの要因を同時に考慮した解析で、「上達のための練習」の時間とランクの関係は次のとおりでした。
- CS:GO:.02
- LoL:-.01
どちらもほぼゼロです。この研究では「関係が弱かった」で終わらせず、「意味のある効果がないと判断してよい」ところまで統計的な手続き(同等性検定と呼ばれる方法)で確認しています。
動画で学ぶ時間も、エイム練習も、コーチとの振り返りも含めた「上達のための練習」の量と、ランクとの明確な関連は確認されませんでした。
この調査が数えているのは、あくまで何時間やったかです。練習の中身の質は測定されていません。
同じ「動画を1時間見た」でも、流し見の1時間と、自分のプレイに落とすつもりで見た1時間は、この調査では同じ1時間として数えられます。
量では説明できなかったのなら、差は時間の外側、その時間で何をしているかのほうにあるのかもしれない。編集部はそう読んでいます。
もうひとつ、LoLでは違う結果も出ています。
ランクマッチやカジュアルマッチを回す「普段のプレイ量」が、ランクをはっきり予測していました(.26)。
CS:GOでは同様の関係は確認されませんでしたが、少なくとも「プレイすること自体が無意味」という結果ではありません。
練習量と実力の関係を調べた研究はほかにもあります。
5タイトル・1,835名を対象にした2020年の別の調査では、実力(自己評価)と上達のための取り組み時間のあいだに、統計的には意味があるものの弱い相関(r = 0.153)が確認されています。
この調査は、練習方法の情報源についても聞いていました。
他のプレイヤーを参考にしている人が84%。一方で、専門のコーチがついている人は2%でした。
「教わる」という選択肢自体が、まだほとんど使われていないことがうかがえます。
発見② CS:GOでランクと関連していたのは「探す速さ」だった
CS:GOのプレイヤーで、はっきりした関連が確認されたのが注意(attention)です。関連の強さは.32で、今回の研究でCS:GOのランクとの関係が確認された心理的な力は、実質これだけでした。
この「注意」は、集中力や根気のことではありません。
研究チームが使ったのは「視覚探索課題」というテストです。
似た形・似た色のものがたくさん並ぶ画面の中から、目標の1つを見つけ出す速さを測ります。
論文はこのテストについて、「強い時間的プレッシャーの下でCS:GOのようなFPSのプレイヤーが実際にやっていることに対応している」と説明しています。
FPSでランクと結びついていたのは、時間の量ではなく、画面の中から「今見るべきもの」を見つけ出す速さでした。
同じテストは、LoLでは意味のある関連を示しませんでした(.11)。
研究チームはこの差を「ゲームごとの情報量の違い」で説明しようとしています。
LoLのように覚えるべき情報が膨大なゲームでは、その学習量が結果を大きく左右するぶん、探す速さのような個人の力の差が薄まる。逆にCS:GOのように覚える情報が比較的少ないFPSでは、見つける速さがそのまま差になって出る、という考え方です。
交戦の瞬間、画面には遮蔽物・味方の位置・体力バー・敵の気配と、情報が同時に映ります。
その中から「今すぐ見るべき1つ」を取り出す速さが、次の判断の速さを決める。上手い人の「気づくのが早い」は、この力と地続きだというのが編集部の見立てです。
この研究で結果が確かめられたのはCS:GOとLoLで、ほかのFPSタイトルは検証されていません。
研究チームは、登場キャラクターやマップの多いゲーム(例としてOverwatchが挙げられています)では、覚える情報量が多いぶん注意の重要度は下がるかもしれない、という未検証の予測を述べるにとどめています。
発見③ 反応時間・粘り強さは関係が確認されず、年齢だけは効いていた
ランクとの関係が予想されていた次の要因には、意味のある関係が確認されませんでした。
- 反応時間(反射神経):CS:GOで関係なしと確認(LoLは結論保留)
- 粘り強さ:CS:GO・LoLとも関係なしと確認
- 知能:LoLで関係なしと確認(CS:GOは結論保留。追加の解析では関連を示す結果もあり、決着がついていません)
「反射神経が落ちたから勝てない」という説明は、この研究では支持されていません。
関係が確認されたのは年齢でした。若いプレイヤーほどランクが高い傾向です(CS:GOで-.33、LoLで-.22)。
ここだけ読むと社会人には厳しい数字です。
ただ、論文はこの理由を1つに絞っていません。反応や注意の加齢変化、達成動機の変化などと並べて、別の候補も挙げています。
若いプレイヤーほど、友人との会話や日常の情報など、生活そのものがゲームと密接に絡んでいて、本人も気づかないうちに学習が起きているのではないか、という説明です。
もしこの説明が当たっているなら、年齢そのものというより「そのゲームの情報にどれだけ浸っているか」の差かもしれません。
どの説明が正しいかは、この研究だけでは決められません。
eスポーツプレイヤーにとって何を意味するのか
「まだ練習が足りない」「反射神経が落ちた」という定番の説明は、少なくともこの研究では支えが見つかっていません。
研究が示したのはここまでで、その先はGAME STEPの考えになります。時間をこれ以上増やすより、いま使っている時間の中で「何を見るか」を決めるほうが、先に手をつける価値がありそうです。
とくに社会人が、睡眠を削って若いプレイヤーと同じ時間を積む戦い方は、この結果を踏まえると分の悪い選択に見えます。
睡眠を削るとプレイに何が起きるかは、選手を約29時間眠らせなかった徹夜実験の記事で詳しく扱っています。
実際のプレイ環境にどう取り入れるか
研究が示したのはここまでの「関連」です。以下の具体的な手順は、その知見を日々のプレイに落とし込むためのGAME STEP編集部の実践案です(この手順そのものの効果を研究が検証したわけではありません)。
- ランク戦に入る前の30秒で、「今日は何を探すか」を1つだけ決める。
「集中する」ではなく、探す対象を具体的な言葉にします。「敵の足音が鳴った方向」「交戦前に自分が入れる遮蔽物」「味方の残り体力」など、何でも構いません。1つに絞るのがポイントです。2つ3つ持つと、結局どれも見ません。 - 練習時間を増やす前に、直近の負け3試合を「見えていなかったもの」だけで振り返る。
「エイムが悪かった」で終わらせず、「撃たれた瞬間、敵の位置を把握していたか」まで戻ります。当たらなかったのではなく、当てるべき状況を作れていなかった。そういう発見が出てくることがよくあります。 - 上達動画は、見るだけで終わらせず「自分のルールを1行」だけ持ち帰る。
他人の答えをそのまま覚えるのではなく、「敵の位置が分からないうちは遮蔽物から離れない」のように、次に同じ状況が来たときの自分の判断基準の形にして1行だけメモします。動画1本につき1行で十分です。
3つとも、やっていることは同じです。時間を増やすのではなく、その時間で見るものを決めています。
時間の使い方とは別に、「連敗した夜に崩れて時間を溶かしてしまう」ほうに心当たりがある方は、連敗でプレイが崩れる「ティルト」の仕組みを調べた研究の記事も合わせてどうぞ。負けが続いたときの立て直し方を扱っています。
ここで少しだけ、コミュニティのお知らせです。
GAME STEPは、無料のDiscordコミュニティ「GAME STEP LAB」を開いています。
コンセプトは「本気でゲームが上手くなりたい人の研究室」。朝のeスポーツニュースの配信や、この記事のような研究解説の新着が流れてきます。
GAME STEP LABに参加する(無料)
この研究から分かること
- 動画・エイム練習・コーチとの学習を含む「上達のための練習」の時間は、他の要因を考慮した解析でランクとの意味のある関係が確認されなかった(CS:GOで.02、LoLで-.01。同等性検定で「効果なし」まで確認)
- CS:GOでは、視覚探索の速さ(注意)がランクと関連していた(.32)
- LoLでは、ランクマッチなど普段のプレイ量がランクを予測していた(.26)
- 反応時間・粘り強さに意味のある関係は確認されず、年齢は若いほど高ランクの傾向だった(-.33/-.22)
この研究だけでは分からないこと
論文自身が挙げている限界は次のとおりです。
- 練習時間とランクは自己申告のデータである(1日24時間を超える練習時間を申告した参加者もいた。除外して再解析しても結果は変わらなかったと報告されています)
- 参加者はプロ選手ではなく幅広い実力帯のプレイヤーで、プロだけを対象にすれば違う結果になる可能性がある
- 練習の効果が遅れて現れていて、まだランクに見えていない可能性も否定されていない
また、研究の設計上、次のことは言えません。
- 一時点の相関・回帰分析のため、因果関係(練習を変えればランクが上がる・探す速さを鍛えれば勝てる)は証明されていない
- 練習の「質」は測定されていないため、質の高い練習に効果があるかどうかは分からない
- 結果が確かめられたのはCS:GOとLoLで、他のタイトルに同じ傾向が当てはまるかは未検証
まとめ
- 「上達のための練習」の量とランクのあいだに、意味のある関係は確認されなかった
- FPSでランクと結びついていたのは、画面の中から「今見るべきもの」を見つけ出す速さだった
今日から1つだけ選ぶなら、ランク戦に入る前の30秒で「今日は何を探すか」を1つ決めることをおすすめします(編集部の実践案です)。
時間は増やせなくても、その時間で見るものは今日から変えられます。
GAME STEPが考える「上達の仕組み」
GAME STEPは、上達を「才能や気合」ではなく「環境とルールの設計」の問題として扱う、eスポーツの個別コーチングサービスです。
停滞や伸び悩みに悩むプレイヤーに向けて、90分のマンツーマンセッションと、日々のチャット相談・宿題の設計で上達を伴走しています。
今回の研究が数えていたのは「上達のための練習」に使った時間で、そこにはコーチから指導を受ける時間も含まれます。GAME STEPが増やしたいのは、その指導の時間そのものではありません。
「この場面はこうするといい」という単発の指摘で終わらせず、次に同じ状況が来たときに何を見て、何を基準に判断するかというルールの形にして、自分で再現できる状態まで一緒に落とし込む。それがGAME STEPのやり方です。
気になった方への入口は3つあります。
- どんなサービスかをまず知りたい方は、GAME STEPのトップページをご覧ください
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※本記事は紹介した研究で示された知見の解説であり、効果を保証するものではありません。実践案の効き方には個人差があります。
参考文献
- Martončik, M., Karhulahti, V.-M., Jin, Y., & Adamkovič, M.(2024). “Psychological Predictors of Long-term Esports Success: A Registered Report” Collabra: Psychology, 10(1), 117677. doi.org/10.1525/collabra.117677
- Nagorsky, E., & Wiemeyer, J.(2020). “The structure of performance and training in esports” PLoS ONE, 15(8), e0237584. doi.org/10.1371/journal.pone.0237584
eスポーツ・ゲームに関する研究を、プレイヤーが実際に使える知識へ翻訳して届けています。運営:eスポーツ個別コーチング「GAME STEP」